「手術を避けたい方へ」変形性膝関節症の新しい選択肢:クーリーフ(Coolief)治療とは?

2025/11/03

「膝の痛みがつらいけれど、手術はしたくない…」「薬や注射ではもう限界だ」

そうお悩みの方へ、変形性膝関節症の新しい治療法として、今、注目を集めているのがクーリーフ(Coolief)です。

クーリーフ治療は、従来の保存療法(内服薬、注射、リハビリなど)と、最終手段である手術療法(人工関節置換術など)との間に位置づけられる、まさに「第三の選択肢」として登場しました。2023年6月に健康保険が適用され、治療の選択肢が広がっています。

身体への負担が極めて少なく、長期にわたる痛みの軽減が期待できるクーリーフ治療は、特に高齢の方や持病をお持ちの方にとって大きな希望となります。

だて整形外科リハビリテーションクリニックは、この先進的なクーリーフ治療を下関市で初導入いたしました。当記事では、整形外科専門医の知見に基づき、クーリーフ治療の基本的な情報、その画期的な特徴、そしてどのような方に向いているのかを詳しく解説します。

1. クーリーフ(Coolief)治療とは?その画期的なメカニズムを解説

クーリーフは、正式には「末梢神経ラジオ波焼灼療法」と呼ばれる治療法です。この治療がなぜ効果的なのか、その仕組みを専門的な視点から掘り下げて説明します。

治療の仕組み:痛みの神経だけを狙い撃ち

膝の痛みは、変形した関節の炎症によって引き起こされ、その痛みの信号は「感覚神経(知覚神経)」を通じて脳に伝えられます。クーリーフ治療は、この痛みの伝達経路を安全かつ効果的にブロックすることを目的としています。

  1. 高精度なターゲット特定(エコーガイド下):
    • 当院では、院長の伊達亮が専門とする超音波(エコー)を使用し、膝の関節を取り囲む「上内側膝神経」「下内側膝神経」「上外側膝神経」という主要な3本の感覚神経をミリ単位で正確に特定します。この正確な特定が、治療効果と安全性の鍵となります。
  2. 特殊なラジオ波(高周波エネルギー)の利用:
    • 特定した神経に、特殊な構造を持つ針(プローブ)を挿入します。この針の先端から高周波エネルギー(ラジオ波)を流し、熱を発生させます。
  3. 冷却技術による安全性の確保:
    • クーリーフシステムの最大の特徴は、針の先端を冷却しながら(Cooled RF:冷却ラジオ波)焼灼を行う点です。この冷却技術により、熱が神経の周囲に広がるのを防ぎ、焼灼範囲を大きく保ちつつ、周辺の重要な組織(血管や皮膚など)への影響を最小限に抑えることができます。
  4. 痛みの信号をブロック:
    • 熱によって感覚神経を部分的に変性・凝固(焼灼)させることで、神経の機能が一時的に抑制され、痛みの信号が脳へ伝わりにくくなります。これにより、つらい慢性疼痛が軽減されます。

2. クーリーフ治療の3つの大きなメリットと特徴

クーリーフ治療が、特に手術を避けたい患者さんにとって大きなメリットをもたらす理由を詳しく解説します。

メリット1:身体的負担が極めて少ない「低侵襲性」

クーリーフ治療は、整形外科手術のような大きな切開を伴いません。

  • メスを使わない穿刺治療: 治療は局所麻酔下で特殊な細い針を刺すだけで完了します。身体への侵襲が少ないため、全身麻酔の必要がなく、術後の痛みや回復期間が大幅に短縮されます。
  • 日帰り治療が可能: 治療は準備を含めても1時間程度で済み、体調に問題がなければそのまま歩いてご帰宅いただけます。ご多忙な方や、ご家族の介護などで長期間の入院が難しい方でも、比較的受けやすい治療です。

メリット2:長期にわたる疼痛軽減効果の持続

従来のヒアルロン酸注射やステロイド注射は効果が数週間~数ヶ月であるのに対し、クーリーフ治療は長期的な効果が期待できます。

  • 臨床データが示す持続効果: 海外の厳格な臨床試験では、一度の治療で最短11ヶ月、最長で2年間にわたり、痛みの軽減効果が持続したというデータが報告されています。この長期効果こそが、クーリーフが「第三の選択肢」と呼ばれる最大の理由です。
  • 痛みが半減する高い有効性: 治療後6ヶ月の時点で、治療前よりも痛みの程度が50%以上減少した患者さんの割合は、約74.1%に上ります。

メリット3:高齢者、持病を持つ方への適応範囲の広さ

当院のミッションである「地域の寝たきりゼロ」にも深く関わる点です。

  • 全身状態を問わず受けやすい: 全身麻酔を必要としないため、心疾患、肺疾患、糖尿病などの持病をお持ちの方、あるいはご高齢で手術に高いリスクが伴う方でも、痛みの治療を受けることが可能になります。
  • リハビリへの意欲向上: 痛みが軽減することで、今まで痛みで中断していたリハビリテーションや運動療法に前向きに取り組めるようになり、筋力強化、バランス改善、関節の機能回復が促進され、転倒予防にもつながります。

3. クーリーフ治療はこんな方におすすめです

クーリーフ治療は、以下のようなお悩みやご希望をお持ちの方に、特に推奨される治療法です。

お悩み・希望詳細な説明
保存療法での限界内服薬、湿布、ヒアルロン酸注射、理学療法などの治療を半年以上続けても、膝の痛みが十分に改善しない方。
手術への抵抗変形が進んで人工関節置換術を勧められているが、「体にメスを入れたくない」「手術後のリハビリが大変そう」といった理由で手術に踏み切れない方。
手術が困難な方ご高齢や心臓病、糖尿病などの持病により、全身麻酔を伴う手術が高リスクと判断され、手術が受けられない方。
早期社会復帰を希望仕事や家庭の事情で、手術後の長期入院やリハビリによる療養期間を確保することが難しい方。
人工関節置換術後の慢性疼痛手術を受けたにも関わらず、膝の痛みが残ってしまった方。(※注:この場合のクーリーフ治療は保険適用外となるため、自費診療となります。詳しくはご相談ください。)

【重要】適応判断の第一歩:「テストブロック」

クーリーフ治療を安全かつ確実に進めるため、当院ではまず「テストブロック(診断的局所麻酔薬注射)」を行います。

これは、治療のターゲットとなる神経に局所麻酔薬を少量注射し、その注射によって一時的に痛みが半減するかどうかを評価するものです。

  • テストブロックで効果が見られた場合:その神経が痛みの原因となっていることが確実となり、クーリーフ治療の高い有効性が期待できます。
  • テストブロックで効果が見られなかった場合:クーリーフの適応ではないと判断し、他の治療法をご提案します。

4. よくある質問(Q&A)

Q1. 痛みは完全に「ゼロ」になりますか?

A. クーリーフ治療は、痛みを大幅に軽減し、生活の質(QOL)を高めることを目的としています。完全に痛みがゼロになることを保証するものではありませんが、海外の臨床データでも示されている通り、多くの方で痛みが半減する効果が期待できます。痛みが軽減することで、鎮痛剤の使用量を減らせるという患者さまも多くいらっしゃいます。

Q2. 治療後、すぐに日常生活に戻れますか?

A. クーリーフ治療は低侵襲な日帰り治療であり、身体への負担が少ないため、治療後は歩いてご帰宅いただけます。特別な制限はありませんが、数日間は安静を心がけていただくようお願いしています。早い社会復帰が可能です。

Q3. 治療効果はいつ頃から感じられますか?

A. 治療直後に痛みがなくなる感覚があることがありますが、これは一時的な局所麻酔の効果です。クーリーフによる本来の疼痛軽減効果は、神経の焼灼部位が鎮静化するにつれて徐々に現れます。個人差はありますが、早い方で2日〜1週間程度、多くの方が約1ヶ月後から効果を実感し始めます。最大の効果は治療後6ヶ月頃に現れることが多いとされています。

Q4. 治療によって変形が進んでしまうことはありますか?

A. クーリーフは痛みの神経に作用する治療であり、関節の軟骨や骨の変形そのものに影響を与えるものではありません。変形が進行する速度を早めるという報告は現在までありませんが、痛みがなくなったことで無理に動かしすぎると、関節への負担が増す可能性があります。そのため、当院では日本リハビリテーション医学会専門医である院長のもと、痛みが軽くなった後に適切な運動器リハビリテーションを継続することとヒアルロン酸注射やPRP注射の併用を強く推奨しています。筋力強化と正しい動作指導こそが、長期的に膝を守る鍵です。

5. 最後に:だて整形外科リハビリテーションクリニックが目指す治療

当クリニックのミッションは、地域の皆さんの【寝たきりゼロ】です。

高齢化が進む地域において、膝の痛みは活動量を低下させ、筋力低下、転倒、骨折という「寝たきり」に直結する負の連鎖を生み出します。

当院院長の伊達亮は、日本関節病学会からクーリーフの認定医師として認められています。当院は下関市初導入の先進治療であるクーリーフと、充実した運動器リハビリテーションを組み合わせた総合的な治療体制を構築しています。

痛みをブロックするクーリーフで行動を可能にし、リハビリで機能を回復・維持させる。この両輪で、患者さん一人ひとりの「歩く喜び」を全力でサポートいたします。膝の痛みでお困りの方は、まずはお気軽に専門医にご相談ください。

記事監修

日本整形外科学会専門医 伊達 亮(だて整形外科リハビリテーションクリニック 院長)

福岡大学医学部医学科を卒業後、山口大学医学部付属病院整形外科・麻酔科での経験を経て現職に至る。日本整形外科学会専門医日本骨粗鬆症学会専門医日本リハビリテーション医学会専門医など多岐にわたる専門医資格を保持。地域の「寝たきりゼロ」をミッションに掲げ、骨粗しょう症の早期発見・早期治療、および運動器リハビリによる転倒予防に尽力している。

【出典・参考文献】

本記事は、公的機関の発表、および国内外の信頼できる臨床報告に基づき作成されています。

  1. 公的医療制度情報
    • 厚生労働省:令和4年度診療報酬改定の概要(個別改定項目について)
      • (末梢神経ラジオ波焼灼療法(Coolief)の保険適用(Kコード)に関する情報)
  2. 医療機器に関する情報
    • アバノス・メディカル・ジャパン株式会社:Coolief疼痛管理用高周波システムに関する医療従事者向け添付文書及び製品情報
      • (製品の仕組み、冷却ラジオ波(Cooled RF)技術、作用メカニズムに関する情報)
  3. 臨床データ・有効性に関する情報
    • Corey, A. S., et al.:Prospective, Randomized, Multi-Center Study Evaluating the Efficacy and Safety of Cooled Radiofrequency Denervation for the Treatment of Chronic Knee Pain
      • (クーリーフ治療における疼痛軽減の臨床的有効性、持続期間(最大2年間)および安全性データに関する情報。記事中の「痛みが半減」の根拠。)
  4. 専門医学会情報
    • 日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会:変形性膝関節症の診療ガイドライン・関連文献
      • (変形性膝関節症の診断基準、従来の保存療法の位置づけ、およびリハビリテーションの重要性に関する情報)