【セミナー参加】第15回下関膠原病・リウマチ懇談会レポート

2025/10/02

―関節リウマチ治療の最新情報と、患者さん・ご家族へのメッセージ―

2025年9月30日、山口県下関市で「第15回下関膠原病・リウマチ懇談会」が開催されました。
今回の講師は、全国のリウマチ診療を牽引されている三重大学の中島亜矢子先生。関節リウマチ治療の最新情報や、今後の方向性について、患者さんやご家族にも理解しやすい形で解説されました。

だて整形外科リハビリテーションクリニックからも参加し、当院の患者さんにぜひ知っていただきたい大切な内容をここでまとめてご紹介します。

日本における関節リウマチ患者さんの現状

関節リウマチは免疫の異常によって関節に炎症が起こり、進行すると関節破壊や変形をもたらす病気です。

  • 全国の患者数は 約80万人以上 と推定されています。
  • 男女比は「男性1:女性3」で、圧倒的に女性に多くみられます。
  • 発症年齢のピークは40〜60歳代ですが、現在の患者さんの平均年齢は65歳を超えており、70歳以上が半数近くを占めています。

山口県は全国でも特に高齢化が進んでいる地域で、75歳以上の割合が非常に高いのが特徴です。つまり、「高齢でリウマチを抱えている方が多い」ことが地域の課題となっています。

リウマチ治療の中心薬「メトトレキサート(MTX)」とは

リウマチ治療には多くの薬がありますが、第一選択薬(基本薬) とされているのが メトトレキサート(MTX) です。

  • 世界中で使用されており、国際的にも「関節リウマチ治療の基本薬」と位置付けられています。
  • 費用対効果が非常に優れており、多くの患者さんにとって負担の少ない治療薬です。

しかし、日本では高齢患者さんでは使用率が下がる傾向があります。これは、腎臓や肺の病気を合併しているケースが多く、安全に使うためには細心の注意が必要だからです。

その一方で、生物学的製剤JAK阻害薬 といった新しい治療薬の選択肢も増え、患者さんの状態に合わせたオーダーメイドの治療が可能になってきています。

MTXは「効く人」には強力に効く薬

三重大学での研究報告によると、MTXをしっかりと使用した場合、約4割の患者さんが追加の薬なしで「寛解(症状がほとんど出ない状態)」に到達しています。

  • 腎機能低下などなく同製剤を使用できる方には非常に有効な可能性がある
  • 効果が乏しい場合には、早期に薬を追加して治療を強化することが重要

まずMTXを使用して、効かない場合は早めに見極めて次の一手へ」というのが、現在の標準的なリウマチ治療の考え方です。

MTXの副作用とその予防

どの薬にも副作用はありますが、MTXでもいくつか注意すべき点があります。

代表的な副作用は以下の通りです。

  • 骨髄抑制(白血球や血小板が減少)
  • 感染症のリスク増加(体調不良時の服薬で重症化しやすい)
  • 間質性肺炎(まれだが重症化することがある)
  • リンパ腫(MTXを中止することで改善する例もある)

これらを防ぐためには、定期的な血液検査・胸部レントゲン検査が欠かせません。
また、発熱・下痢・脱水などの症状がある場合には、自己判断で薬を継続せず必ず主治医に相談することが大切です。

感染症予防の大切さ

リウマチ治療中は免疫を抑える薬を使用するため、感染症にかかりやすくなります。

特に注意が必要なのが ニューモシスチス肺炎(PCP) です。

  • この感染症を予防するために、「ST合剤」という薬を予防的に使用する場合があります。
  • ただし、副作用として発疹や肝障害が出ることもあるため、医師が腎機能や体調を見ながら、毎日1錠・週3回・半錠 など細かく調整して処方します。

患者さんにとっては「なぜこの薬が必要なのか」「どのように飲めば安全なのか」を理解することが安心につながります。

高齢の患者さんにも広がる治療の選択肢

以前は「高齢だから強い薬は使えない」と言われることもありました。
しかし近年の研究によって、75歳以上の患者さんでも生物学的製剤やJAK阻害薬を安全に使用できるケースが増えていることがわかっています。

ただし、副作用や合併症のリスクは年齢とともに高まります。そのため、

  • 積極的な治療を行うかどうか
  • 治療によってどのように生活の質を守るか

について、ご本人とご家族の希望を尊重しつつ、主治医と一緒に治療方針を決めていくことが重要です。

講演で強調された「患者さんへの3つのメッセージ」

  1. MTXは関節リウマチ治療の基本薬。効果が期待できる人にはしっかり使う。
  2. 感染症や副作用を予防するため、定期検査と体調管理が不可欠。
  3. 高齢になっても、適切に治療を受ければ生活の質を保てる。

関節リウマチは「昔よりずっと良く治せる病気」になってきました。
しかし、薬の副作用を恐れて自己判断で中断したり、通院をやめてしまうと、かえって関節破壊や寝たきりのリスクが高まります。

まとめ|下関で安心できるリウマチ診療を目指して

関節リウマチ治療は、この20年間で大きく進歩しました。早期診断と適切な薬の使用によって、多くの患者さんが関節破壊を防ぎ、元気な生活を送れる時代になっています。

だて整形外科リハビリテーションクリニックでは、

  • 年齢や合併症に合わせた治療方針の提案
  • 副作用を予防するための定期検査・生活指導
  • ご家族を含めたサポート体制

を大切にしながら、地域の患者さんが安心して治療を続けられるよう取り組んでいます。

「薬は怖いもの」ではなく、「正しく使えば人生を支える大切な味方」 として前向きに捉えていただければ幸いです。

どうぞ気になることがあれば、いつでもスタッフにご相談ください。

執筆者情報

日本整形外科学会専門医 伊達 亮
(だて整形外科リハビリテーションクリニック 院長)

福岡大学医学部医学科を卒業後、山口大学医学部附属病院整形外科・麻酔科での経験を経て現職に至る。
日本整形外科学会専門医、日本骨粗鬆症学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医など多岐にわたる専門資格を保持。地域の「寝たきりゼロ」をミッションに掲げ、骨粗しょう症の早期発見・早期治療、運動器リハビリによる転倒予防 に尽力している。