だて整形外科リハビリテーションクリニック

【むち打ちは放置NG】軽い追突でも長引く理由とは?整形外科医が解説|WAD分類に基づく治療と予防のポイント

2025/07/07

1. むち打ち(WAD)とは?

「むち打ち」は日常的な呼び名ですが、医学的にはWhiplash Associated Disorders(WAD)と呼ばれ、首に外力が加わったことで起こる一連の症状群を指します。

1995年、カナダのQuébec Task Forceにより提唱されたWAD分類は、現在も世界的な診療基準となっています。

2. WAD分類(Quebec Task Force)

  • WAD 0:症状・他覚所見なし
  • ・WAD I:首の痛み・違和感のみ(他覚所見なし)
  • ・WAD II:頚部の可動域制限、圧痛などの他覚所見あり
  • ・WAD III:神経学的所見(しびれ、反射異常など)あり
  • ・WAD IV:骨折・脱臼を伴う重度外傷

この分類により、症状の程度や治療方針の見通しが整理されます。

3. 「軽い事故でも重症化する」理由とは?

  • 脱力状態での受傷:追突事故では被害者側が無警戒・脱力状態であることが多く、筋肉で首を支える準備ができていないため、頭の重さ(約4~5kg)が慣性のまま首に加わり、大きな損傷を招くリスクがあります。
  • 車の破損が少ないと、むしろ危ない?:車体の損傷が軽微だと衝撃が車で吸収されず、乗員にそのまま伝わることがあります。実際、文献でも以下のように指摘されています:

“There is no direct correlation between the amount of vehicle damage and the severity or duration of WAD symptoms.”

─ Spitzer et al., Quebec Task Force Report, 1995

このケベック報告書の一文は、誤って「車両の損傷が軽い=治療不要」と解釈されることもありますが、報告書の趣旨は「症状が続く場合には再評価を行うことが必要である」としています。また、報告書自体が「活動再開」を重視しており、完全な無症状化や全人的ケアには触れていない点に注意が必要です。

4. むち打ち症状の具体例

  • ・首の痛み、こり
  • ・頭痛、背部痛
  • ・手足のしびれ(神経症状)
  • ・めまい、吐き気、倦怠感(自律神経症状)
  • ・症状が数時間〜数日遅れて出現するケースも多い

症状が軽くても油断せず、早期に整形外科で診察を受けることが重要です。

5. 初期治療こそが“鍵”|文献が示す重要性

WADの予後において「最初の数週間の対応が極めて重要」であることは、多くの国際的研究で裏付けられています。

文献的根拠:

6. WADに対する漢方治療の活用

WADは、打撲や筋緊張、自律神経失調、気圧変化に伴う頭痛・めまいなど、多様な症状を伴います。漢方医学では、これらの症状に対し「気・血・水」の不調として捉え、体質(証)に応じた処方を選択します。

以下はWADで使用されることが多い漢方薬一覧です

ツムラ番号漢方名主な適応・証
1葛根湯(かっこんとう)急性期の頚肩部こり
17五苓散(ごれいさん)気圧変化に伴う頭痛・めまい(利水)
24加味逍遙散(かみしょうようさん)自律神経症状・イライラ・不安
25桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)おけつ体質・慢性痛
53疎経活血湯(そけいかっけつとう)頚部痛・腰痛・温めると改善する症状
89治打撲一方(ちだぼくいっぽう)打撲・腫れ・瘀血(急性期の痛み)
125桂枝茯苓丸加ヨクイニン(けいしぶくりょうがんかよくいにん)慢性炎症・瘀血体質・浮腫

7. むち打ちの後遺障害とその対応

一定期間以上症状が残存した場合は、交通事故損害保険における後遺障害等級(12級または14級)に該当する可能性があります。

その際、以下が重要になります:

  • ・継続的な通院歴
  • ・MRIや神経学的評価所見
  • ・医師の診断書

【まとめ】むち打ちは“軽いケガ”ではない。初期の対応がすべてを決める

  • ・脱力状態での追突は、症状が遷延・慢性化しやすい
  • ・車両の破損の軽さと、身体へのダメージは一致しない
  • ・早期診断・早期治療が、予後を大きく左右する
  • ・特に最初の2〜3ヶ月の内服治療(漢方含む)や、毎日行う物理療法・理学療法士によるマンツーマンの運動器リハビリが重要
  • ・WAD分類に基づいた評価と段階的な治療が、後遺症のリスクを減らすカギ

📌 ご相談は整形外科専門医へ
事故後に首や背中の違和感がある場合は、時間が経っていても整形外科へご相談ください。「念のため」の診察が、将来の後悔を防ぎます。