「むち打ち」は日常的な呼び名ですが、医学的にはWhiplash Associated Disorders(WAD)と呼ばれ、首に外力が加わったことで起こる一連の症状群を指します。
1995年、カナダのQuébec Task Forceにより提唱されたWAD分類は、現在も世界的な診療基準となっています。
この分類により、症状の程度や治療方針の見通しが整理されます。
“There is no direct correlation between the amount of vehicle damage and the severity or duration of WAD symptoms.”
─ Spitzer et al., Quebec Task Force Report, 1995
このケベック報告書の一文は、誤って「車両の損傷が軽い=治療不要」と解釈されることもありますが、報告書の趣旨は「症状が続く場合には再評価を行うことが必要である」としています。また、報告書自体が「活動再開」を重視しており、完全な無症状化や全人的ケアには触れていない点に注意が必要です。
症状が軽くても油断せず、早期に整形外科で診察を受けることが重要です。
WADの予後において「最初の数週間の対応が極めて重要」であることは、多くの国際的研究で裏付けられています。
文献的根拠:
WADは、打撲や筋緊張、自律神経失調、気圧変化に伴う頭痛・めまいなど、多様な症状を伴います。漢方医学では、これらの症状に対し「気・血・水」の不調として捉え、体質(証)に応じた処方を選択します。
以下はWADで使用されることが多い漢方薬一覧です
ツムラ番号 | 漢方名 | 主な適応・証 |
---|---|---|
1 | 葛根湯(かっこんとう) | 急性期の頚肩部こり |
17 | 五苓散(ごれいさん) | 気圧変化に伴う頭痛・めまい(利水) |
24 | 加味逍遙散(かみしょうようさん) | 自律神経症状・イライラ・不安 |
25 | 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) | おけつ体質・慢性痛 |
53 | 疎経活血湯(そけいかっけつとう) | 頚部痛・腰痛・温めると改善する症状 |
89 | 治打撲一方(ちだぼくいっぽう) | 打撲・腫れ・瘀血(急性期の痛み) |
125 | 桂枝茯苓丸加ヨクイニン(けいしぶくりょうがんかよくいにん) | 慢性炎症・瘀血体質・浮腫 |
一定期間以上症状が残存した場合は、交通事故損害保険における後遺障害等級(12級または14級)に該当する可能性があります。
その際、以下が重要になります:
📌 ご相談は整形外科専門医へ
事故後に首や背中の違和感がある場合は、時間が経っていても整形外科へご相談ください。「念のため」の診察が、将来の後悔を防ぎます。